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“Diplomacy, History and Politics”(外交、歴史および政治)のDivisionは、様々な国の外交政策に焦点をあてます。国際コミュニケーション、国際環境政策、交渉および紛争解決、国際政治経済、政治システムおよび理論、安全保障、リーダーシップなど、様々な授業が提供されています。

Diplomacy, History and Politics (DHP)

DHP

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Diplomacy, History and Politics

“Diplomacy, History and Politics”(外交、歴史および政治)のDivisionは、様々な国の外交政策に焦点をあてます。国際コミュニケーション、国際環境政策、交渉および紛争解決、国際政治経済、政治システムおよび理論、安全保障、リーダーシップなど、様々な授業が提供されています。

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Class of 2019 K.A.

Class of 2017 Y.S.

Class of 2019 J.T.

Class of 2017 R.M.

The Art and Science of Statecraft

Class of 2019 T.H.

Class of 2019 T.H.

Class of 2019 H.S.

Class of 2019 J.T.

Class of 2019 J.T.

Class of 2019 K.A.

アンカー 1

Class of 2019 K.A.

Class of 2019 K.A.

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軍のブーツ
NS
PIN
RF
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PS
IEP

National Security Decision Making
by Michele Malvesti

Class of 2019 K.A.

この授業では、講義名にあるとおり、国家安全保障に関わる政策決定の事例について、政策決定過程論、心理学、経済学、ゲーム理論などの視点から分析します。具体的な事例としては、イラン人質救出作戦やキューバ危機など、アメリカの国家安全保障に関わる政策決定を中心に扱います。授業を担当するミシェル・マルべスキ教授は、ジョージ・ブッシュ政権(子)時の国家安全保障会議(大統領府の諮問機関)で、約5年間対テロ班のディレクターをしており、学術的な知識だけでなく、実際に第一線の現場で政策決定に関わってきた経験を持っています。

授業は週に2回あり、1回あたり75分です。綿密に準備され、よくオーガナイズされています。リーディング課題は平均して50ページ程度で、ときには100ページ以上課されることもありますが、事前に質問リストが提示されるため、課題を読むにあたって何がポイントとなるかが分かりやすいです。授業では、冒頭に教授が30分程度のレクチャーをします。その後、質問リストに沿う形で、6-7人程度のグループで10-15分程度ディスカッションをし、残りの時間はクラス全体でディスカッションを行います(教授と対話するような形)。全体で60人程度いる比較的規模の大きい授業なので、グループディスカッションの際はかなりにぎやかになり、グループ内の会話も聞きにくくなるのが少し問題です。

教授は教育熱心で、学生を授業に巻込もうと色々な工夫をしています。例えば、レクチャーの冒頭にホワイトハウスで働いていたときのエピソードを紹介したり、最新の関連するニュースについて学生に質問したり、グループ対抗のクイズをしたりしていました。グループによるプレゼンテーションの際には、できるだけすべてのメンバーが発言するように促していました。また、政府で働いていたときの人脈を活かし、ゲストスピーカーとして現役の米軍将官、政府高官やジャーナリストなどを授業に招待し、貴重な話を聞く機会が何度もありました。

授業の評価は2回の小テスト、中間テスト、期末レポートの成績を合わせた総合評価です。期末レポートのテーマは、国家安全保障に関わる政策決定の事例を取り上げ、授業で習った理論やコンセプトを適用して分析するという内容です。私は鳩山政権時における普天間飛行場移設問題をめぐる政策決定を事例として取り上げ、政権内外の主要なメンバーに注目し、認識バイアスの視点から政策決定過程を分析しました。いずれのテスト・レポートも、しっかりとリーディングを読み、授業に集中していれば問題なく対応できると思います。

日本では、政治学や行政学の分野で政府の政策決定過程を扱う授業などがあると思いますが、国家安全保障に関する政策決定(短時間に、限られた情報の中で、重大な決定を行う)を扱う授業はほとんどないのではと思います。教授が実際に政策決定に関わった経験を持っているという点も、知識・理論が単に机上のものだけでなく、政治家、官僚や軍人が決定を行うにあたって有効な判断材料となっていることが実感できます。まさにアメリカならではの、さらにはフレッチャーならではの授業だと思います。

Class of 2017 Y.S.

マルベスティ教授は、フレッチャー卒(Ph.D. / MALD)で、NSC(National Security Council)で対テロ戦略の責任者として勤務した経験や、それ以前にも政府のインテリジェンスコミュニティでの勤務経験があり、米国の意思決定に関する十分な知識と経験を持つ教授です。

このコースでは、半期を通じて、①米国の意思決定機関の概要と課題、②古典的意思決定モデル、③意思決定上のチャレンジという大きく3つのカテゴリーについて学びます。①では、主にNSCのシステムや議論の流れについて学びます。機能と地域、タイミングと正確性等の意見の分かれる優先順位についても議論し、意思決定の基本的な考え方について理解を深めます。②は意思決定の分析枠組みとして古典的でありながら最も有名なアリソン(Graham Allison)の『決定の本質(Essence of Decision)』中で挙げられている枠組みを学びます。ただし、ただ枠組みの概念を学ぶのではなく、実際にあったケースを適用して議論するため、同じケースを多角的に分析する能力が養われます。例えば、1979年から1980年にかけて発生したイラン米大使館人質事件について、各モデルを適用し説明を試みます。一次資料が豊富な米国ならではのチャレンジであり、例えば立証が困難な政府内政治モデルについても一定の説得力ある説明が可能になります。そして③では、意思決定の基本的な考え方や古典的な枠組みを理解した上で、例えば情報(intelligence)と意思決定の関係や、メディアが意思決定に及ぼす影響等について学びます。ゲストスピーカーが登壇することも多く、マルベスティ教授の豊富な人脈によって、現在進行形で米国の意思決定過程に関与しているスピーカーが講義を行うこともあります。

講義は、Reading assignmentsを読んだ上で、事前にDiscussion Questionsが提示されるため、その回答をそれぞれの学生が準備するところから始まります。クラスでは、毎回のテーマについてマルベスティ教授が概要を説明した後、スモールグループ(4~6名)に分かれてQuestionsについて議論し、その後クラス全体で議論を深めます。マルベスティ教授は熱意溢れる教育者であり、各グループにグループの議論結果を求めたり、それぞれの学生の自由な意見を求めたり、様々な意見や考え方を引き出そうと試みます。そして、マルベスティ教授が重視する意思決定に重要なエッセンス(ここでは明かせませんが)を繰り返し強調し、意思決定を分析する際の普遍的な視座を提供します。

大学院での勉強は、突き詰めると物事を自分で考えることができる力を身に着ける、あるいは高めることにあると思いますが、その成果として論文(capstone)を執筆する上で、本講義は多くの示唆に富んでいます。すなわち、①古典的な意思決定モデル、②マルベスティ教授が強調する意思決定のエッセンス、③意思決定へのチャレンジ、といった様々な分析枠組みや視座を得ることができます。物事を多角的に分析するという力は、アカデミックに限らす、日々の生活や仕事においても重要な力であり、本コース受講によって自然と養われることになります。意思決定に関する最新のトピックスや議論を加味した授業は、日本ではおろか米国でも貴重ではないかと思います。また、安全保障にとどまらず、国家あるいは組織の意思決定に理解を深めることは、ビジネスや開発分野においても汎用性が高いと言えます。

マルベスティ教授のオフィスアワーは受講生が優先的に予約できるようになっています。オフィスアワーでは、講義内容にとどまらずフレッチャーにおける生活や研究一般についても、自らのフレッチャー時代の経験も踏まえて親身にアドバイスをしてくれます。

Process of International Negotiation
by Elizabeth McClintock, Naseem Khuri

Class of 2019 U.M.

フレッチャー人気授業の1つ、国際交渉の授業です。100名程が受講するため、4つに分かれて各クラス2人の講師がつきます。私のクラスは、1人はMcClintock先生という交渉・紛争解決のコンサルティング会社を立ち上げながら(交渉コンサルティングという概念自体が日本だと聞き慣れないですが、その位アメリカでは交渉というのが一つの技術として明確に認識されているようです)、SAISなどでも教鞭をとっている方でした。もう1人はKhuri先生というMcClintock先生の会社で働いているコンサルタントの方です。

この授業は「Getting to Yes」、「3D Negotiation」の2冊を教科書として進みます。ハーバード、MIT、フレッチャーが共同で行っている交渉学の研究センターがあり、そこの研究に基づいたいわゆるメソッドを学ぶことになります。交渉と聞くと、交渉のテーブルでの心理戦、いかにその場の話術やノンバーバルコミュニケーションを通じて相手にイエスと言わせるかというもの、実戦でしか鍛えられないのではと思いがち(私もそう思っている節がありました)ですが、それは交渉の一部分でしかない、むしろ交渉の要諦はその前段にある、というのがこの授業のスタンスです。3D negotiationの教科書では交渉をSetting (交渉の枠組設定)、Deal Design (交渉内容)、Tactics (交渉テーブルでの戦術)の3次元に分けて分析をしており、上記の心理戦はTacticsに当たります。しかしSetting、DealDesignも同じ、あるいはそれ以上に重要で、それにより交渉のゲームチェンジをできるという考え方です。

授業も交渉のテーブルに着く前の状況分析に重点を置き、ケースをもとに利害関係者分析を徹底的に行います。ステークホルダーは誰なのか、交渉の全体像はどうなってるのか等をBATNA (交渉不成立の際のベストオルタナティブ。交渉の下限、すなわちどこまで強気に出られるかを決める)、ZOPA (交渉可能領域)、利害分析、バリア分析、等のツールを使って分析し、誰を巻き込むべきなのか、どのような選択肢を取ることができるのかなど交渉戦略を立てて行きます。こう見ると、交渉とは実戦で体得すべきものという側面だけでなく、分析可能な戦略を要するものと感じられると思います。また、交渉をこの3次元のフレームで捉えることで、社内調整から国際交渉まで幅広くそのフレームが応用できるようになるなとも感じました。もちろん、心理学的アプローチやジェンダー、文化的差異などに着目したTacticsの部分も扱います。

授業はレクチャー、ロールプレイ、ディスカッションとバランスよく構成され、交渉学の全体像を学ぶことが出来ると思います。また、丸一日かけて行う多国籍間交渉のシミュレーション (15ヵ国30人のグループで1つの合意文書を作成) は、グループのファシリテーターをやらせて頂いたこともありとても学びの多い経験となりました。

題材も理論の理解を目的とした架空のケースから、北朝鮮との核交渉を題材にした実践的なものまであり、とても面白いです。日本で学ぶ機会の少ない科目の一つだと思います。

Role of Force in International Politics
by Richard Shultz

Class of 2019 J.T.

「抑止力」「低強度紛争」「人間の安全保障」…どこかで聞いたことはあるけれど、いざ説明しようとすると言葉に詰まる。こんなことってありますよね。安全保障にちょっと興味がある、でもどこから手をつけていいかわからない-そんな悩みをお持ちの方は少なくないと思います。そんな方にオススメしたいのが、フレッチャースクールで四半世紀にわたって続くこの名物授業です。

この授業では、その名の通り、国際政治における軍事力の役割を扱います。ウィーン体制以来のバランス・オブ・パワーから近年の人道支援活動まで、軍事力の機能は生き物のような変化を遂げてきました。今も昔も軍事は国家の存亡に関わる問題であるだけに、こうした変化の裏に潜む議論を追いかけるのはとてもスリリングです。授業は、国際関係、特に軍事関係理論の基礎をさらいながら進むので、初学者にとってはよき入門編になりますし、すでに知見のある

    ダンフォード米統合参謀本部議長との対談にて。右がシュルツ教授。

方にとっても、シュルツ教授の含蓄ある解説は、知識をさらに深めるよすがになります。特に、専門分野の非正規戦に関するパートは必聴です。

しかし、この授業を受講する意義はそれだけではありません。社会科学の面白さは、現実世界を眺める理論的基礎を自分の中に築けるところにあります。授業内容をもとにその一例を紹介しましょう。

日本の安全保障にとって、喫緊の課題の一つは北朝鮮の核問題です。アメリカの「核の傘」は日本を守ってくれるだろうか?ニュークリア・シェアリングを検討すべきだろうか?…みなさんも、こうした「核抑止力」に関する議論を耳にしたことがあるかもしれません。核抑止論は、冷戦時代の知的営為の結晶であり、担当のシュルツ教授も熱を込める分野の一つです。

例えば、日本は、弾道ミサイルを着弾前に撃破するミサイル防衛システムの整備を進めていますね。核抑止論の面白いところは、こうした能力の整備はかえって安定を損なう、という一見直感に反する議論があることです。その心はというと、核保有国同士(日本は核保有国ではありませんが)は、互いに核兵器を使用しあった場合に自国に生じる被害を許容できない、という前提に立って核兵器の使用を抑制する、ある種の均衡状態にあるわけですが、ミサイル防衛システムはこの均衡を崩してしまい、敵にさらなる核軍拡や先制攻撃への誘因を与えてしまう、というのです。国際関係論の大家であるケネス・ウォルツは、こうした立場から、ミサイル防衛システムではなく核兵器の拡散こそが平和をもたらす、と主張しました。突飛に感じるでしょうか?しかし、彼の主張は、反論も多くあるもののそれなりの説得力を持っています。このテーマを巡る彼の対談本は邦訳(*)が出ていますので、詳細が気になる方はぜひ。

授業の論点は、核抑止のような軍事色の強い分野だけではありません。例えば、人道支援や国際平和協力活動は、軍のみならず、国際機関やNGOに焦点が当たる面白いトピックです。「軍事力」と聞くと、どうしても軍隊同士の武力衝突を連想してしまいがちです。しかし、ひとたび勉強してみると、世界の平和と安定を考える上で、軍事はとても裾野の広い分野であることがわかります。

現在、日本は幸いにも長きにわたって平和を享受しています。しかし、国際政治において軍事力が果たす役割は未だ小さくありません。もしあなたがグローバルな仕事をしたいなら、それがどのような分野でも、安全保障に関する基礎的な知識を持つことは決して無駄にはならないはずです。ダンフォード米統合参謀本部議長をはじめとする数々の著名人も輩出したこの授業、あなたも受講してみませんか。

 

* 「核兵器の拡散: 終わりなき論争」勁草書房

Class of 2017 R.M.

フレッチャーでは安全保障に関する授業が数多く開講されていますが、その内容を理解する前提として国際社会における武力の位置づけについて理解することは必要不可欠です。ただ、古くから多くの人々の関心を惹きつけてきたこの分野については膨大な量の議論が蓄積されており、独学ではその基礎をおさらいすることすらなかなか大変だと思います。Role of Force in International Politicsは、そのような安全保障に関する基礎固めを一手に引き受けてくれる授業です。

この授業では、安全保障という概念の捉え方から始まり、国際関係論の基本的な考え方、武力行使の正当性、軍事力の機能、国家安全保障政策の形成過程、移り変わる武力紛争の態様といった、授業名から想像できる内容を網羅的に押さえることができます。その内容の広範さに応じて大量の課題文献が課せられ、その膨大さはネイティブであっても常人では処理しきれないほどですが、教授主導で編成されるスタディ・グループのメンバー間で課題文献を分担して要約・共有することになっています。

担当するRichard Schultz教授は、非正規戦等の非伝統的な安全保障問題を専門とする研究者ですが、伝統的な国家による武力行使にも造詣が深く、国防総省や米軍等と太いパイプを持っているようです。前世紀からこの授業を担当し続けているだけあって、教授の解説はフレッチャーでも一、二を争うほど体系だっていると言われています。授業の形式は典型的なマスプロであり、ひたすら教授が話し続ける内容を拝聴し続けることになりますが、知識をしっかり体系化して基礎固めをしようとする立場からすれば下手にインタラクティブな形式にされるよりよほどありがたい気がします。

成績は期末試験のみで評価されます。米国の大学院の期末試験は、文献の参照が可能であったり、自宅に持ち帰って解くことが許されたりと様々な形式がありますが、この授業の期末試験は試験場で文献参照不可という典型的な試験形式です。小論述8問(各6点)と大論述1問(52点)に制限時間3時間半(ネイティブは3時間)で答えることを求められ、しっかりと要点を把握しておかないと時間が足りません。ただ、過去問と似た問が出題されることが多く、教授が十数年分の過去問をウェブ上にアップしてくれるほか、過去問を授業テーマ別に分類したワードファイルなどが学生間で出回っているため、試験対策は比較的やりやすい授業と言えます。また、教授は授業の要点を衝いた問を出題してくるため、試験対策自体が授業の有効な復習になるでしょう。きっちり予習をしようとして授業前から闇雲に課題文献を読むより、まず授業で教授の話を聞いてから、ノートを見返し、教授が強調した課題文献にざっと目を通したうえで、関連する過去問の答えを逐次作っていくのが効率的な勉強方法ではないかと思います。教授は回答に必要なポイントが含まれているか否かだけで採点しているようであり、少々文法や用語法がおかしい非ネイティブの文章でもきちんとポイントさえ押さえておけば回答内容の質に見合った成績が来ます。

私は学部生時代に国際関係論等を専攻しておらず、安全保障を学術的・専門的に論じる知的な基礎が出来上がっていませんでした。この授業のおかげで、安全保障に関する他の授業をしっかり理解できるようになったと言っても過言ではありません。また、国際関係論等を学部時代に先行していた人であっても、武力行使という分野をここまで掘り下げて勉強したことはまず無いのではないでしょうか。Role of Force in International Politicsは、およそフレッチャーで安全保障を勉強しようと思う人全員にとって履修する価値が極めて高い授業だと思います。

The Art and Science of Statecraft
by Daniel Drezner

Class of 2019 T.H.

フレッチャースクールでも指折りの知名度を誇るDrezner教授による、外交政策を理論と実践の両面から議論する名物講義です。Drezner教授は、アカデミアや政府機関(財務省)でのキャリアを経て、2006年からフレッチャースクールでの教職についており、ワシントン・ポスト電子版にもコラムを持っていて毎日のように寄稿しているほか、ツイッター等のソーシャル・メディアでも積極的に発信を行なっています。トランプ大統領やティラーソン国務長官といった政権中枢に対しても容赦なく斬り込んでいる姿は、日本で私が抱いていた社会学者像を良い意味で裏切ってくれました。

まさに「戦う学者」とも呼ぶべきDrezner教授ですが、その姿勢は、学生相手の講義中も変わりません。講義そのものは、外交政策や安全保障政策の立案に必要とされる政策ツールをオムニバス的に概観するという、オーソドックスな内容ですが、Drezner教授の個性的な話術(時折り際どい言葉も飛びます)によって、いつも教室内はものすごい熱気にあふれており、私にとっては75分という講義時間が一瞬のように感じられるほどでした。各回の講義は、最初にDrezner教授が、今回題材となる政策ツール(例えば抑止、ソフトパワー、制裁等)を理論面から説明した後、それぞれのツールが適用された実例を紹介します。そして学生からの質問タイムとなり、教授からの説明で触れられていない実例や、理論と実例の相違点等について、活発なディスカッションが行われます。学生からの質問や提起に対し、たとえ、それが多様な背景を有する学生が集う場においては政治的、外交的に敏感と思われる話題であったとしても、全てに対して逃げることなく真摯に答える教授の姿が印象的でした。当初はDrezner教授とアメリカ人学生のめくるめくようなスピードのディスカッションを追うだけでも大変でしたが、この手の講義は、実際に議論に参加してこそ意義があると考え、各回最低でも一回は自分自身の疑問点をぶつけることを心がけました。

履修者は大きく3つの課題を提出することを求められます。1つ目は、任意の実在する国家を主体とした大戦略(グランド・ストラテジー)を作成するというもの。2つ目は、国家あるいは都市等を対象とした世界規模でのランキングを考案するというもの。そして3つ目が期末課題に当たるもので、Drezner教授が提示する選択肢の中から、特定の国家及び当該国家が直面する国際紛争を選び、政策メモを作成するというものです。大戦略と政策メモは個人、ランキングはグループごとでの作成・提出となります。いずれの課題も、高評価を得るためには、講義で紹介された理論及び実践を踏まえた上で独自性を発揮することが求められます。

トランプ政権の誕生や中露の台頭により、リベラルな国際秩序が揺らいでいると言われる中、いかにして日本は、対処療法的、受け身的な政策のパッチワークに陥ることなく、大局的な戦略を立てた上で、自国のプレゼンスを確保し、国際秩序の維持あるいは形成に主体的に関与していくのか。私にとっては入学して最初のセメスターでしたが、この講義は、今後のフレッチャースクールでの学びにとって、最高の羅針盤となりました。

The Politics Statecraft
by Daniel Drezner

Class of 2019 T.H.

先学期私からご紹介させていただいたArt & Science of Statecraftの続編で、引き続きDrezner教授のマシンガントークを追いながら、アメリカの外交政策決定プロセスを学ぶコースです。Art & Scienceと比べて、よりアメリカ国内政治にフォーカスを当て、行政府(大統領、閣僚、官僚・・・)や立法府(連邦議員(与党・野党))、あるいは圧力団体、そして世論といった多様なアクターが、それぞれどのように外交政策に影響を与えるのか、理論と実例の両面からDrezner教授が解説しつつ、クラス内でのディスカッションも行います。ディスカッションベースのセミナー形式ということもあり、Art & Scienceよりも圧倒的少人数(12名)で、非アメリカ人学生は私のみ。また、専らアメリカ国内政治についての議論となるため、自分が聞いたことのない政府高官や連邦議員の名前やエピソードが話題になると、なかなか付いていけず、少し歯がゆい思いもしました。しかしながら、アメリカの外交政策決定プロセスは、議院内閣制の日本とも他の主要国とも大きく異なりますし、米朝接近に象徴されるようにトランプ政権においては、その差異が更に顕著なものとなっています。したがって、アメリカ外交における多様なアクターの役割やインセンティブを頭に入れておくことは、個々の外交政策を読み解いていく上でも非常に重要です。

本コースでは通常の講義の合間に、計3回、シミュレーションを行いました。1回目は北朝鮮問題に関する議会公聴会を模して、各人が質問者側の連邦議員、答弁者側の閣僚に扮して議論を行うというもの。2回目は国家安全保障会議(NSC)で、各人がホワイトハウスや国務省、国防総省の高官に扮し、翌月に控えた米朝首脳会談への対応も含め北朝鮮問題について議論するもの。そして3回目は政治討論番組を模して、番組司会者側とゲスト(政府高官、連邦議員、専門家等)に分かれ、これもまた北朝鮮問題に関して議論を行いました。上述のとおり普段の講義では、なかなか発言・発信ができていなかったため、このシミュレーションでは、意識して積極的な役割を果たすよう努めました。また、議会公聴会やNSCのシミュレーションでは、発言要領や想定問答の作成、議事の運営などの下準備も率先して行いました。まさか職場を遠く離れてアメリカの大学院に来てまで、このような作業をすることになるとは思っていませんでしたが(笑)、手前味噌ではありますが、これらの下準備の甲斐もあり、Drezner教授からも、例年以上に中身の濃い議論ができたとの講評をいただきました。

学期最後の講義では、Drezner教授一押しの映画が上映されました。Conspiracy(邦題「謀議」)という2001年製作の映画で、第二次大戦中の1942年に、アイヒマンを始めとしたナチスドイツの幹部が集結し、ホロコーストの本格化を決定した会議を描いたものです。約1時間半、ひたすら同じ会議卓を囲んで議論を重ねる出席者の顔が映し出されるという異色の映画でした。会議が始まった当初は、戸惑いや疑問、良心の呵責を感じていた出席者もいたものの、議論が進むにつれて集団心理が暴走し、あらゆる倫理的問題が脇におかれ、あっという間にユダヤ人虐殺の本格化という結論へと突き進んでいく様子を見て、これまでにない寒気を背筋に感じました。Drezner教授が上映後におっしゃった、「我々を含めて組織で働く全ての人間にとって、こうした問題は起き得ると思う」という言葉は、私自身、大組織に身を置く者として忘れられない一言となりました。

International Energy Policy
by Kelly Sims Gallagpher

Class of 2019 H.S.

産業革命以降、エネルギーは国家の存続と繁栄にとって欠かせないものであり、いかにして必要なエネルギーを確保するかは国家の至上命題だったとも言えるでしょう。昨今のシェール革命や中国の経済発展が世界のエネルギーの流れに、そしてさらには地政学的バランスにどのような影響を及ぼしたのか、再生可能エネルギーはどれだけの可能性を秘めているのか、原子力について安全性や核不拡散の観点からいかに評価するかなど、現代の国際社会においても、エネルギーの重要性になんら変わりはありません。

Gallagher教授のInternational Energy Policyは、エネルギーの生産や消費の推移、エネルギー安全保障、環境問題等、エネルギーに関する幅広い分野を取り扱う授業です。この授業を通じて、単なるエネルギー政策についての理解を深めるというだけでなく、エネルギーという視点から国際関係・安全保障の全体像を捉え直すという新しい視野を得ることができたように思います。特に、エネルギーの生産と消費は、その価格を通じて様々な国の経済、そして政治に影響を及ぼします。そのダイナミズムについて、それに関連する様々な要素と合わせて理解を深めることができたことが、この授業を通じての一番の収穫となりました。

もしかすると、我々日本人学生にとってのこの授業の最大の特徴は、日本の存在感を感じることができるということかもしれません。産出する資源の乏しさ、輸入先の偏り、省エネルギーへの取り組み、公共交通機関、電力政策、原子力発電など、国際比較の文脈では必ずと言っていいほど日本が取り上げられます。しかも、この授業ではディスカッションの機会が多く、なかなか私のような純ジャパの日本人学生は尻込みしたくもなりましたが、Gallagher教授はそんなことを許してくれません。日本について言及される際には必ずと言っていいほど発言が求められ、政策なり個人の体験談なりを説明する機会も必然的に増えました。世界中の学生が集まる中で、このように日本の知見が繰り返し求められる機会というのは大変重要かつ誇らしいものだと思います。エネルギーについてご関心のある方々にとって、この授業が単に学ぶだけでなく、日本での経験を世界に広める貴重な機会となることを願っています。

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Nuclear Dossier
by Francesca Giovannini

Class of 2019 J.T.

この授業は、その名の通り核兵器に関する諸問題がテーマです。授業名にある「Dossier」とは聞きなれない単語ですが、辞書によると「事件記録」といった意味だとか。ただ、授業は必ずしもケーススタディが中心、というわけではありません。授業内容は核兵器をめぐる諸問題の総覧といった具合で進み、米国の核戦略から始まり、冷戦期の米ソの角逐、拡大抑止といったオーソドックスなテーマから、核不拡散やテロリズムといったトピックまでを網羅します。

Giovannini教授は核問題が専門で、オックスフォードで五年前に博士号を取得したばかりのどちらかといえば若手の研究者です。イタリア人らしい快活な性格で、学生と教授の距離が非常に近い、これぞフレッチャースクールといった風情の授業と言えるでしょう。

見落とされがちですが、核問題はongoingな問題です。残念ながら、予見しうる将来において核兵器が世界からなくなることはないでしょう。北朝鮮やイランといった新参者だけでなく、アメリカ、ロシア、中国、インドといった大国の間でも、核兵器は依然として強力な軍事的・政治的ツールであり続けています。核兵器について学ぶことは、国際政治を覗くレンズを一つ自分に加えることになります。その点で、この授業はとても有意義でした。

日本でも、北朝鮮という極めて分かりやすい核の脅威を前にして、「核抑止力」をはじめとする、核戦略に関する議論が盛んになってきていますよね。授業で扱う核戦略の面白い点は、完全に対立する学術的議論がありながら、その双方に説得力があることです。核兵器の抑止効果を強調し、核拡散を肯定したケネス・ウォルツと、それを否定したスコット・セーガンの議論もそうですし、冷戦期に限定戦争(核兵器を使用しない戦争)は可能だと主張したハーマン・カーンとそれに対するバーナード・ブローディの反論もそうです。授業では、これらの学術的議論の蓄積を極めて分かりやすく解説してくれます。

この授業でとりわけ印象深かったのは、最終回の授業で紹介された科学者たちのエピソードでした。1941年、ナチスドイツ占領下のデンマークで、当時の物理学界を代表する学者だったヴェルナー・ハイゼンベルグとニールス・ボーアが会談しました。ハイゼンベルグはボーアに核兵器実用化の理論的可能性とナチスの下で開発へ協力することへのためらいを語ったとされ、これに衝撃を受けたボーアは、のちにアメリカに渡ってマンハッタン計画に協力します。核兵器を運用する政治家や軍人もさることながら、何十万人の命を一瞬で奪ってしまう兵器を開発した科学者にも葛藤がありました。核兵器を作り出すのも運用するのも感情を持った人間です。それゆえに核兵器は暴発の危うさを抱えていますが、同時に抑止と相互不信のロジックを超えた、使用抑制への希望があるのかもしれません。

NKSS

North Korean State and Society
by Sung-Yoon Lee

Class of 2019 J.T.

この授業は、この原稿を執筆している2018年5月末現在、佳境を迎えようとしている北朝鮮情勢を扱います。自身もフレッチャーOBであるLee教授は朝鮮半島情勢にかけては米国でも指折りの研究者で、最近はBBCやNBCにもよく出演しています。

授業は第二次大戦直後の朝鮮半島の分断から始まり、北朝鮮の体制や社会問題について扱っていきます。Lee教授は該博な知識の持ち主で、関連する国連決議のナンバーや輸出入の金額といったデータをことごとく諳んじているのには感嘆させられます。また、教授は授業の冒頭に「今週何か面白いニュースはあったかな?」と生徒に尋ねるのを常としているのですが、ホットなトピックだけに生徒からの発言も多く、時に教室がディスカッションの様相を呈して二時間の授業時間の大半が過ぎてしまうこともあります。

毀誉褒貶のある米韓の対北朝鮮政策については、こちらのアカデミズムの主流派はどちらかというと批判的であるようです。北朝鮮は自国の体制を維持することにかけては非常に合理的かつ狡猾であり、彼らのいわゆる「微笑み外交」に惑わされてはならない。対話すること自体は悪いことではないが、逸ることなく北朝鮮を正しく疑ってかかるべし、というのです。今の所、トランプ政権もこの立場に立っているように見えますが、なんにせよ特に米朝関係からは目が離せませんね。

これから何が起こるかわからない北朝鮮問題ですが、だからこそ米国で一流の研究者から学ぶ機会はとても貴重です。教室で直接授業を受けるのはたかだが一学期ですが、大抵の場合、フレッチャーの教授は雑誌やテレビへの露出も少なくなく、たとえ授業を受け終わった後でもその考えをフォローすることができます。こうした信頼できる私淑先を見つけられれば、卒業してからも自分の考えをupdateするのに役立ちます。この授業とLee教授は、間違いなくその役割を果たしてくれると思います。

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Islamic World
by Ibrahim Warde

Class of 2019 K.A.

アメリカにおける中東の政治経済への関心の高まりから、フレッチャースクールでも中東に関する講義は比較的充実しているように思います。本講義を担当するIbrahim Warde教授は、イスラム世界における金融制度の研究の第一人者で、中東の経済について幅広くカバーしています。Islamic Worldの内容は、主要なイスラム教国(サウジアラビア、湾岸諸国、エジプト、イラン、トルコ、パキスタン、マレーシア)の最近のビジネス事情について、国際政治経済の文脈から解説・議論するものです。これまで、この地域について勉強したことがなかったため、知見を広げるという目的で受講しました(教授からは「中東の政治経済の入門コースとして適切」と話がありました)。

しかし授業では、クラスの規模が小さく(聴講生含め10人程度)、また中東の政治経済のバックグラウンドを持つ学生が多数だったため、冒頭に教授から各国の政治経済について基礎的な説明があったものの、湾岸諸国の王制、パキスタンの部族、イラン核合意の動向やマレーシアの政治スキャンダルなど、議論は個別専門的なトピックになることが多く、議論についていけないこともありました。リーディング資料が、教授がピックアップした最近のニュース記事のまとめ(20-30ページ程度)ということも、全体像を理解するのを難しくさせている要因かもしれません。 

授業評価は、授業参加、中間テストと最終レポート及びプレゼンテーション(内容はレポートについて)です。授業参加については、出席していれば問題ありません。中間テストは教授が事前に5つの論述問題を発表し、そのうち2つを当日の試験で問うというもので、事前に模解を作っておけば問題ありません。他の学生と協力して分担すると楽です。最終レポートはワードで10ページ程度、プレゼンテーションの発表時間は15分程度です。テーマは授業で扱ったものであれば自由に決められます。Warde教授の授業の評価は甘いことで有名で、最後まで授業に出席し課題をこなしていれば、良い成績が取れると思います。また、教授はたいへん優しく、学生の質問には親身に対応してくれます。

この授業は0.5単位の授業で、75分の講義が週1コマしかありません。限られた時間で多くの国を扱うため、どうしても知識が断片的になってしまいます。あまり実用的ではないのではとも懸念しましたが、後日、トルコほかイスラム教国を訪問する機会があり、有識者と面会するにあたって大変役に立ちました。

地域研究の授業であるため、万人に勧められる授業ではありませんが、イスラム圏に関心のある方、または0.5単位の穴埋めの授業が必要な方にお勧めしたいと思います。

PDA

Privacy in the Digital Age
by Susan Landau

Class of 2019 K.A.

これまで、フレッチャースクールのサイバーセキュリティに関する授業は、Michele Malvesti教授が担当している「Cyber Security」のみでしたが、昨年(2017年)、新たにSusan Landau教授が赴任し、授業の選択肢が増えました。Susan Landau教授は、コンピュータサイエンスを専門とし、グーグルやサン・マイクロシステムズ(2010年にオラクルと合併)などのIT企業で長年働いてきた経験を持っています。授業内容も、政策(特に安全保障)に重点を置くMalvesti教授に対し、Landau教授はコンピュータサイエンスをめぐる技術、法律や倫理に注目しています。

私は2018年の春学期に「Privacy in the Digital Age」という授業を取りました。この授業の主題は、IT技術の発展に伴う個人と国家(または企業)の間におけるプライバシー権をめぐる軋轢ですが、まず大前提として、基礎的なIT技術に関する知識が求められます。初回の授業では「そもそもインターネットとはなんぞや」というところから説明がはじまりました。

この授業の興味深いところは、実技的な要素が含まれているところです。例えば、インターネット通信の内容を解析するソフトを紹介し、実際に無防備なインターネット接続でやり取りされているデータ(パケット)の中身を見てみたり、インターネット通信を匿名化するソフト(Tor)をダウンロードし、一定期間使用してレポートを書いたり、Googleの利用規約を見て、どのような個人情報が収集されているかを確認するなどの演習がありました。また、この授業はフレッチャーとタフツ大学工学部との合同授業であり、受講生の半数が工学部でコンピュータサイエンスを専攻する学生です(政策的な面はフレッチャーの学生が、技術の面は工学部の学生が補完)。

授業で主に扱ったトピックとしては、「IT技術の基礎」、「情報通信におけるプライバシー概念の発展(米国、主に判例を参照)」、「暗号化・匿名化技術」、「情報収集・監視技術」、「各国(米国、欧州、インド、中国ほか)におけるインターネットにおけるプライバシー権のありかた」などがありました。

正直なところ、授業の負担はかなり重かったです。半期の授業なので約2か月しかありませんが、この短い期間に3つのレポート( ただし、2つは短いもの)とグループプレゼンテーションをこなす必要があります。また、毎回のリーディングも50-100ページ程度あり、事前の質問提出が課されました。授業自体もディスカッション中心のゼミ形式で、積極的な発言が求められます。

この分野に不慣れだと、授業についていくだけでも大変かもしれません。私自身も、コンピュータサイエンスのバックグランドはなく、春学期に取った科目の中ではもっとも勉強したつもりでしたが、成績は何とか単位を取得できたというレベルでした。しかし、「政策担当者が、IT技術の専門家と共通の土台で意思疎通ができる」という授業の目標にはある程度近づけたのではないかと感じています。個人的には、これまでに取った授業の中でも最も学びが多く、新たな視点が得られた授業でした。サイバーセキュリティに関心がある方すべてにお勧めしたいと思います。

Russia

Contemporary Issues in U.S. Russian Relations
by Chris Miller

Class of 2019 T.H.

アンカー 2

フレッチャースクールでも最若手、ロシアを専門としているMiller教授による米露関係に関する授業です。週2回の授業のうちの1回は、モスクワ国際関係大学(MGIMO)の学生との合同授業で、画面越しにロシアの外交官の卵たちとのディスカッションを行います核軍縮・不拡散から、非従来型の紛争、アジアや中東と米露両国の関わりなど、多岐にわたるトピックをカバーしました。

以前当サイトのブログでも少しご紹介しましたが、私個人としては、この授業はフレッチャースクールで受けた授業の中でも最も印象に残るものの一つとなりました。ロシア外交について言えば、私自身、意思決定がブラックボックスの中にあって、安保理での投票行動に代表されるように常にアメリカの逆張りをしようとしているといった漠然としたイメージしか持ち合わせていませんでした。しかし、実際に次代のロシア外交を担う同世代と議論することで、彼らには彼らの物の見方があるということを実感しました。

当然、そこには緊張が走ります。例えば2014年に起きたロシアによるクリミア併合。そもそも「併合 (annexation)」と言う言葉を使うべきかどうかという所から議論はスタートします。あるいは現在注目を集めている「サイバー・セキュリティー (cyber security)」についても、アメリカの学生達や我々が想像するサイバー・セキュリティーとモスクワの学生達が想像するサイバー・セキュリティーは全く違った意味を持ちます。時には、用語やコンセプトについて合意を得るだけで、ほとんどの授業時間を使ってしまうこともあります。

また、例えばウクライナを含む旧ソ連や中東で起きた「色の革命 (Color revolutions)」。西側では、旧態依然の独裁的な指導者に対して民衆が決起した出来事として、概ね肯定的に描かれることが多いですが、画面越しの彼らから見ると、それはアメリカが現地の民衆の意向を無視し、押し付け的なやり方によって地域を不安定化させた国際法にもとる行為な訳です。NATO拡大や北朝鮮を巡る議論についても多くは平行線を辿り、何か合意に達したということは、ほとんどなかったように思います。ロシアの学生が発言する度に、私の周りに座るアメリカ人学生が見せる困惑した表情は忘れられません。

今回の体験を通じ、自分自身が、やはり(あえて東西で単純化すると)「西側」の人間であったのだと実感しました。もちろん日本とアメリカでも物の見方の相違は多々ありますし、この留学期間中もつくづくそれは実感しました。しかし、全く異なる見方に接する体験は非常に新鮮でした。

率直に言って、「安定」と「秩序」を重んじるロシア的な考え方に対して、「民主主義」や「人権」を重んじる立場からすれば相容れないものを感じるのは当然だと思います。彼らの考え方に迎合したり、屈したりする必要もありません。民主主義や人権、法の支配といった概念は、混迷の度合いを深める世界にあって、ますます日本として全力で維持、向上させていかねばならないものであることは言うまでもありません。

しかし、我々と同じく情報化時代に生き、程度の差こそあれ多くの情報に触れているであろう同世代の彼らがそういった考え方を持っているからには、何か、そこには理由があり、決して独り善がりとは言い切れない哲学があるかも知れない。それを知ることは国際関係を前に進めていく上で有用なツールになるかも知れない。そこに思いを致せたことは大きな収穫でした。これを機に、ロシアの歴史学や民俗学の専門書に手を広げたり、(プロパガンダ放送とも言われていますが、ある意味それを承知で!)ロシアのテレビ放送を日常的に見るようにしたりするなど、ロシア的な考え方への理解を深めるように心がけています。

Capstone projectで日露関係を扱うこともあり、3月にはサンクトペテルブルク、モスクワを訪問する予定ですが、ここで画面越しに議論したロシア人学生達と直接会う予定です。果たして今度はどんな議論になるのか。緊張しつつも、わくわくしています。

PolicyandStrategy

Policy and Strategy in the Origins, Conduct and Termination of War
by Richard Shultz

Class of 2020 Y.O.

フレッチャーの名物教授の一人であるシュルツ教授が開講する授業です。シュルツ教授は、安全保障分野の中で、特にイラクなどでの国内紛争(Low Intensity Conflict)における米国の戦略等に焦点を当てて研究されているベテランの教授です。

シュルツ教授が開講するもう一つの授業”Role of Force in International Politics”は、Security専攻の必須科目となっており授業サイズが大きいのに比べ、本授業は、中程度のクラスサイズ(30名ほど)です。本授業は、前述の”Role of Force…”を履修し終えてからの履修が前提とされており、実際に”Role of Force…”がSecurity分野を広く浅く扱うのに対して、本授業では対象の分野を狭く深く扱います。実際の内容は、まず軍事戦略家である孫氏、クラウセビッツ、リデル・ハートに加え、政治的理論家であるアリストテレス、マキャベリ及びカントの理論を分析することから始まります。これらの理論を分析ツールとして、歴史上の六つの戦争であるペロポネソス戦争、ナポレオン戦争、南北戦争、第一次大戦、第二次大戦及びベトナム戦争について、戦争の原因、推移、終結について分析していきます。分析では、特に戦争における政治的目標について踏まえた上で、戦争遂行国の政策・戦略の一致や戦略の妥当性、同盟の影響、民軍関係、政治文化及び倫理等に焦点を置いて考察します。

授業は、主に教授のレクチャー形式で行われるものの、区切りごとに質疑応答の時間が設けられ、教授と生徒間で活発な議論が行われます。授業の内容からか、ミリタリーフェローをはじめ、軍関係者やバックグラウンドを持つ生徒の受講が多い印象でした。また、評価は、期末試験(3時間半の論述)の結果ですべてが決まる形式です。

日本においては、本授業のように戦争について正面から、かつ理論に基づいて考察する授業はあまり見られないことから、本授業は、米国において国際関係・安全保障を学ぶ醍醐味が味わえる授業の一つだと思います。また、授業内容もよく練られており、重要なポイントが理解しやすいように設計されているので、その点でも履修価値が高い授業だと思います。個人的には、本授業は、研究内容もさることながら、他の研究内容に生かすこともできる分析ツールを学べた点でも有意義でした。加えて、第二次大戦の項目においては、当時の日本についても時間が割かれ考察します。日本について米国の教授が分析した視点を学ぶことができるのも、本授業の利点の一つです。

Policy and Strategy in the Origins, Conduct and Termination of War
by Richard Shultz

PSOCTW

Class of 2020 Y.O.

フレッチャーの名物教授の一人であるシュルツ教授が開講する授業です。シュルツ教授は、安全保障分野の中で、特にイラクなどでの国内紛争(Low Intensity Conflict)における米国の戦略等に焦点を当てて研究されているベテランの教授です。

シュルツ教授が開講するもう一つの授業”Role of Force in International Politics”は、Security専攻の必須科目となっており授業サイズが大きいのに比べ、本授業は、中程度のクラスサイズ(30名ほど)です。本授業は、前述の”Role of Force…”を履修し終えてからの履修が前提とされており、実際に”Role of Force…”がSecurity分野を広く浅く扱うのに対して、本授業では対象の分野を狭く深く扱います。実際の内容は、まず軍事戦略家である孫氏、クラウセビッツ、リデル・ハートに加え、政治的理論家であるアリストテレス、マキャベリ及びカントの理論を分析することから始まります。これらの理論を分析ツールとして、歴史上の六つの戦争であるペロポネソス戦争、ナポレオン戦争、南北戦争、第一次大戦、第二次大戦及びベトナム戦争について、戦争の原因、推移、終結について分析していきます。分析では、特に戦争における政治的目標について踏まえた上で、戦争遂行国の政策・戦略の一致や戦略の妥当性、同盟の影響、民軍関係、政治文化及び倫理等に焦点を置いて考察します。

授業は、主に教授のレクチャー形式で行われるものの、区切りごとに質疑応答の時間が設けられ、教授と生徒間で活発な議論が行われます。授業の内容からか、ミリタリーフェローをはじめ、軍関係者やバックグラウンドを持つ生徒の受講が多い印象でした。また、評価は、期末試験(3時間半の論述)の結果ですべてが決まる形式です。

日本においては、本授業のように戦争について正面から、かつ理論に基づいて考察する授業はあまり見られないことから、本授業は、米国において国際関係・安全保障を学ぶ醍醐味が味わえる授業の一つだと思います。また、授業内容もよく練られており、重要なポイントが理解しやすいように設計されているので、その点でも履修価値が高い授業だと思います。個人的には、本授業は、研究内容もさることながら、他の研究内容に生かすこともできる分析ツールを学べた点でも有意義でした。加えて、第二次大戦の項目においては、当時の日本についても時間が割かれ考察します。日本について米国の教授が分析した視点を学ぶことができるのも、本授業の利点の一つです。

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